03.末恐ろしい


「一筆書くって言ったが………………」

「え、ウソだったの?」

うなりながら頭を抱える男と寂しそうに尋ねる少女。
二人は公園のベンチで向かい合って腰をかけていた。

お互いの目の前には小さな丸型の株。
机代わりらしい。

つぶらな瞳で下から覗き込んでくる顔は見たまま、小学生のそれ。

けれど、少女が「一筆書いて」と差し出したのは一般社会において十分通用しそうな
内容だった。
男も普段契約書を見る事がないのではっきりとはいえなかったが。

『甲とか乙とか……。本格的すぎるだろ!?』

そして男はボールペンを持ったまま微動だにできずにいた。

男はもう、かれこれ一時間ほど同じ姿勢のまま。




――――1時間前。
もう二度とここに来ないだろうと思っていた少女が目の前に仁王立ちしていた。
「アイスクリーム受け取りに来たのか?」

思いのほか硬い表情をしていたので、男としてはニヤリと笑って聞いてみた。

すると、
「ええ、そうよ。タダでアイスクリームもらっても、大丈夫なように今日は準備して来たのよ」

「なんだよ、準備って。これから戦いにでも行きそうな勢いだなおまえ」

「『オマエ、おまえ』うるさいのよ! 私にも名前があるんだから」

「アイスクリーム渡すだけで渋るやつが名前なんて聞いて教えてくれんのか?」

「それはおいといて」

「オィ」

男のツッコミは無視し、少女はランドセルからゴソゴソと紙とボールペンを取り出した。

「お代は取りません。無料です、って書いてほしいのよ。心配だから」

「そんな事書かなくったって、やるって言ってんだろうが」

「大人は嘘つきじゃない」

口をとがらせて少女は男を見上げる。
このままだと前のように言い合いが再発しそうだ。

「――……はぁ。わかった、書くからよこせ」

ここは年上の自分が折れるべきだろう。
そう思って紙とボールペンを受け取る。

少女はニッコリ、満面の笑み。
反対に口の端が引きつる男。



そして場面は冒頭に戻る。


結局言葉の応酬。

小学生相手に丸め込まれた気もしないでもないが、男は渋々サインをした。
ロロノア・ゾロ。

「あんたゾロって名前だったのね」

サインをした紙を丁寧に受け取って、少女は名前を確認した。

「じゃあ、私の名前も言わないと公平じゃないわね。ナミよ」

本当に目の前にいるのは小学生なのかと疑問に思いながらも、ゾロは差し出された手にアイスクリームを
手渡した。








To Be Continued