04.見られたからといってなんともないが


「見たぞ」

「なにがだ」

「おまえがシンデレラさながらに将来美人になるレディーをたぶらかして
いただろうが!!」

「…………はぁ? なに寝ぼけた事言ってんだバカが」

顔を真っ赤にして公園に乗り込んで来たかと思うと、ぐるぐるマユゲの同級生――サンジは
ゾロに向かって叫んだ。

けれど訳がわからない。

こっちはバイト中だってーのに。手間を増やすな。
心の中でうめく。


ゾロは今日もあの少女にアイスを手渡すべく――別に義務でも脅されている
訳でもなかったが。そういう契約になっている――授業をサボってアイスクリーム屋の
バイトに来ていた。
公園にワゴンを運んで、日よけのパラソルを設置して。
全て準備が終わったのを確認して寝ていたら。

頭を叩かれて起こされたのだった。

「しらをきるつもりか、マリモ頭のくせに生意気な。俺は間違いなく見たぞ――
テメぇがレディーにアイスクリーム貢ぐ姿を!!」

「…………そんな大声で言わなくても聞こえてる。アイスクリームを貢ぐ……?」

脳内フル回転。

「…………」

「…………」

パッとひらめく。

「…………あァ。ナミの事か」

「やっぱり貢いでたんじゃねーか!!」

「テメぇが『シンデレラ』とかぬかすからわからなかったんだろうが」

「ぐっ、それでも貢いでいることに変わりはねぇー!」

「別に貢いでないって言ってんだろうが。根性が気に入ったからアイスやるだけだ。だいたい……
レディーレディーうるせぇ。手を出すなよ、まだ小学生――子供なんだ」

「レディーに年は関係ねぇよ」

サンジは世の中のまだ見ぬ女性を思ってか、空を仰いだ。

そんなサンジに、ゾロは引き気味に、

「おまえ――――ロリコンだったのか」

「違うわァァァァ」

じゃれあい……もとい、言い合いが一時間ほど続いた。



そんな、二人のやりとりを草葉の陰から耳をすませて聞く少女が独り。
オレンジ色の輝くような髪をして、ランドセルを両手でキュっと握り締めている。
名札には、ナミと書かれている。
「…………言われなくたって、子供だってわかってるわよ」

ポツリと呟くと、その日ナミはアイスクリーム屋には寄らずに家に帰った。






To Be Continued